羽化

Date : 2011/07/28

酔い覚ましに公園のベンチで一服して、小さな砂場を歩いてガレージに戻ろうとすると、砂場の中央辺りを懸命に這っているモノがいる。這っている付近を探しても地面に穴は見つからないので公園の中のどこか遠い所から這い出て来た様子。進もうとしている先を辿ると僕が先に居たベンチの傍の銀杏の木を目指しているらしい。暫しそいつと併走する。歩みは早いのか遅いのか、、時間がどのくらい経ったのか分からない。自分の時間感覚を喪失して、這っているものの時間に合わせる。思ったよりはずっと早く銀杏の木の下に辿り着いた気がする。一服することなく、同じテンポで今度は登り始める。それを眼で追いかけていくと、銀杏の葉に沢山の仲間がぶら下がっているのが見えてきて僕は少々たじろいだ。さっきまでは何でもないいつもの銀杏の木だったのに、きっと梅雨明けから僕の知らない間に夏の夜の行楽地よろしくこうして賑わっていたのね。 そのまま、僕の身長を超えて這い上がって行ったけれど、ほかの仲間がそう高くない所に留まっているので、多分見えなくなるような高い所までは行かないだろうと僕は確信して動きが止まるのを待つ。案の定、幹の最初の測道を右に逸れ、張り出した枝の一番低い先端へと進んでいく。葉っぱを避けて進むので、ここまでの様な一定のテンポは乱れるも、同じように黙々と枝の先へ向かっている。素早い動作ではないけれど、どこか急いでいるようでもある。

僕はガレージに戻り、ラジオを一つ聞き一服。人間のお産は(僕は知らないけれど)何時間もかかるのできっと羽化は明け方だろうと勝手にイメージしていたが、少し心配になってカメラを持って枝先に戻った。既に這う物では無くなっていた。急いでいたんだ。

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