中谷至宏氏
1994年3月
ギャラリー・ココ
ギャラリー源
愛知県立美術館Gスペース
INTO PRINT 展 紹介文

「版との逢瀬」

彼らは新たな出会いを求めているわけではない。すでに相手は定まっている。彼らに動揺があるわけではない。すでに付き合い方は心得ている。ただ気がかりなのは、待ち合わせ場所を決めないことには会えないこと、そしてまた次の待ち合わせまでは会えないことである。ここに集まったのは60年代後半生まれの版画家たちである。行おうとするのは版画についての展覧会ではなく、版画のための展覧会でもなく、また版画を介した展覧会でもなくまさしく版画の展覧会であると言ってよいだろう。というのも版画というジャンルは様々な規範、制約から成り立っているが、彼らはともかくそれらの規範に素直に向き合っているように思えるからである。世代の上で、彼らには版画と素直に付き合える幸福な出会いがあったとも言えるだろう。しかし彼らは決してそれに没入しているわけではない。ましてやそのジャンルを本質的に成立させている版画というメディア、あえて区別するならば版というメディアに安住しようとしてはいない。規範を肯定した上で、個としてメディアに真っ直ぐに相対すること。
彼らにとって版は、出会いの場(un lieu de rencontre)であり、対決の場所であり、待ち合わせの場所でもある。版画は待つことを必然的に伴っている。待つことの駆け引き、そして次の逢瀬へと時間を重ねることによって物語は綴られていく。お定まりの付き合いに終わらないためには、この断続的な時間の策謀に長けることが必要とされるのである。彼らの逢瀬は今さわやかな高ぶりをもって始まった。だが幸福な出会いは決して幸福な結末を保証するわけではない。問われるのはそれぞれの挑み方、そして愛し方なのである。

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