梶谷 真司氏 Shinji Kajitani(哲学)
2001年2月

立嶋滋樹個展 [SLOW] 紹介文
2002年3月26日~4月5日
2003年2月11日〜2月21日
ギャラリー・デコ
2002年7月6日~11日
番画廊

 

「体験の緩やかさ」

最近の立嶋さんの作品は、山水画ではないかと思う。山水画はシンプルな線と濃淡から「間」を出現させる。しかしそのシンプルさ、寡黙さゆえに、「間」はかえって雄弁たりうる。立嶋さんの表現にも、これに通底するものが認められる。どちらも、そこには直接描かれていない「何か」が、豊かに映し出されている。 ではこの映し出されるものとは、いったい何だろうか?かつて立嶋さんは自分の作品について、「確かに存在し、不確かである」と語っていた。一見謎めいた言葉に思われるかもしれないが、こうした言わく言い難いものは、実は意外に身近にある。たとえば、風や光がそうだ。あるいは音の響き、時間、空間、雰囲気、感情、生命・・・。いずれもそれじたいは見えず、捉えどころがない。だが目の前の景色、周りの空間、多くの体験の中にはっきり感じられるもの。立嶋さんの作品から浮かび上がるのは、このような「何か」、それらが渾然一体となったものではないか。
今回のタイトルは「SLOW」。「緩慢さ」とは元来、時間的カテゴリーだが、ここではそれがもっと拡張されている。SLOWな風、SLOWな光、SLOWな響き、SLOWな空間、SLOWな雰囲気、SLOWな感情、そしてSLOWな生命・・・。それはきっと、体験の緩やかさだ。
急激に加速する時流の中、立嶋さんは「SLOW」という位相から、多様な次元を静かに紡ぎ出そうとしているのだろう。

@